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全体像としてのEQバランス 【MIX】

MIX(TD)の際に「EQバランス」「アタック感」「歪み感」の3つの質感を判断することを特に大切にしています。
全体的な聴こえ方としてのバランス感を整えるイメージで個々のトラックに対しての処理を施していきます。

例えば、
アタック感がしっかり聴こえないと、ぬる~いサウンドになってしまうロック系の楽曲では、
ドラムを中心にアタックを引き出し、「曲全体としてのアタック感」を程よい量にもっていきます。
ありすぎても、「パツパツ」しか聴こえないのでカッコよくないです。
「程よい量」が肝なのです。
理想は、「アタックもあり、サスティーンも効いてるサウンド」です。

別の例を挙げると、
マイクプリを挟まずに録られたクリーンすぎるボーカルトラックに対しては、
歪み成分を加えることで圧倒的に太さが増しつつも適度にサウンドに馴染み、説得力のある歌声へと激変します。
使うのはマイクプリをシミュレートしたプラグイン。
「歪み」といってもバリバリ歪むわけではなく、倍音が付加されて元気がいいサウンドになる!、サチュレーションですね。
クリーンすぎるアコギやピアノなんかにも有効です。
この手法も、歪ませすぎては、ただ汚いだけです。
「程よく」歪み成分を演出することにより、楽曲全体の質感をコントロールします。

このように、「ありすぎてもダメ、なさすぎてもダメ」「適度なバランス」を考え、
僕は、特に「EQバランス」「アタック感」「歪み感」の3つにフォーカスしMIXを進めています。

さて、今回はその中でも「EQバランス」について一歩踏み込んでご紹介していきたいと思います。
EQの使い方や、楽器毎の削り方・ブーストの仕方などは、ネットや書籍に情報が沢山あると思いますので、
「全体像としてのEQバランス」に的を絞ります。
マスタリング的な意味ではなく、「全体のバランス(ゴール)を意識しながらMIXを進める」ための僕の考えです。
では!



バランスの良いサウンド


ざっくりと低域・中域・高域を3つわけ、(ほんとにざっくり)
それぞれのバランスが理想的に取れている状態を視覚化しました。

この「バランスがいい」というのは、聴感上のバランスであり、dBが同じというわけではありません。
(dBが同じだとバランスは悪いです)
勿論、楽曲が違えば、エンジニアも違い、編曲者も違い、演奏者も違い、ボーカリストも違い、ジャンルも違い、、
と、当然バランスの違いはあります。
というか、もう違いしかありません。
正直「良くないな」と思うサウンドのCDもあれば、「素晴らしい!」と思うCDもあります。
数々の楽曲をINPUTすることにより自分の中で「平均値」を持つのです。
いいなと思うCDはやはりその「平均値」に近い音がします。
なので、我々、音楽を創る側の人達は日ごろから色々な音楽に触れるべきなのです。
うむ、我ながら、なんともグサリと刺さる言葉。。
わたくしも日々精進します。

少し話がそれましたが、抽象的に「バランスがいい」としか表現できませんが、
とりあえず、各々の理想のサウンド感をイメージして貰えればOKです!



低域が出過ぎている


さてここから本題です。
低域から高域まで、バランスの良いMIXに対して、明らかに低域が出過ぎてしまったサウンドの例です。

キック・ベース・ギターのローは確かに「おいしい」です。
低域(土台)がしっかりとないと、曲は安定して成り立たないという理由もあり、ロー成分は必須のエッセンスであり最重要ポイントです。

しかし、「ロー出さなきゃ!」「迫力にはローでしょ!」と安直に出し過ぎてしまうと
全体として聴いた時に、もわっと抜けの悪い音になり、結果「もわもわ」「ぼわぼわ」しか聴こえてこないサウンドになってしまいます。
いわゆる「マスキング現象」。ローエンドの整理が必要です。

「迫力を出すにはロー」は間違っていないですが
「迫力を出すにはローをしっかり出し、中域・高域もバランスよく出す」これが正解です。
つまりはバランスのいい音がゴールなのです。
もしEQバランスが取れているのに目的の音にならなければ、それはEQ以外に目を向けることが大切です。
最初に挙げた「EQバランス」「アタック感」「歪み感」の3つの内、「アタック感」「歪み感」にも注目してみるのがオススメです。



低域が足りない


逆に低域が圧倒的に足りない場合はどうか。
これは音圧を求めすぎている人によく見られるバランスの取り方です。

低域は他の帯域に比べ、音のパワーが大きいので、削れば削るほど、全体の音量をリミッターに突っ込むことが出来ます。
これを突き詰めてしまうと「ローカット」をどんどん加速させます。
しかも、ローカットによって得られた「中高域」というものは、ラウドネス曲線にも見られるように「よく耳に届く音」なので、
さらに音圧が高いように錯覚します。
結果、音量のでかい(しかし音圧は感じない)、低域スッカスカ、ただ耳に痛いだけのサウンドに仕上がります。
リスナーも不快な音に感じるので、これは絶対に避けるべきでしょう。



中域が出過ぎている


これは、90年代とか80年代とか、カセットテープとかのサウンド感を連想させるバランスです。
中域が少~しだけ出ている分には、「あり」です。
相対的にローとハイが抑えられるので、あえて、あまり派手にしたくない曲はこういったバランスを取ることもあります。
しかし、やり過ぎはよくない。
こもった印象になり、各トラックの分離も悪いです。
トラック数が少ないおとなしい曲にはぴったりはまるかもしれません。
しかし今は音数多いですからね。注意したいところです。



中域が足りない


相対的に低域と高域が出ている、ドンシャリですね。
これもなくはないです。
というかエレクトロ・EDMなんかは歌モノやロックに比べ、ドンシャリ気味。
しかし、やはり平均値・許容値はあるので、中域が足り無すぎるのはNGです。
サビに入ってトラックが賑やかになっても音の密度が低いのでガツーン!ときません。



高域が出過ぎている


上記の「低域が足りない」に似ていますが、中域・低域のバランスが取れている分、
高域だけが突出しているイメージです。
これもなくはないですが、ボーカルのシビランスやシンセ・シンバル類などが耳につくと痛いし
その分低域の安定感が聴き取りづらくなります。
バッキングのギターの10K辺りが出過ぎていると、耳に痛くって迫力のない質感になってしまいます。
現代のハイファイ感を出すには高域がほど良く出ていることが必須ですが、
それならばそういった編曲が必要になる、そんな帯域です。



高域が足りない


高域は楽曲の煌びやかさに直結するので、足りないと、
こもっている・ハイファイ感がない・メジャーシングル感がない、と思われてしまう帯域です。
有りすぎると上記の通り「痛い」サウンドになりますが、足りないと、どうにも安っぽいというか、
アンダーグラウンドなイメージになります。
低域を司るキックですが、キックのアタック成分(2K~10K)は高域担当です。
アタックをEQ的に出してあげることで、楽曲全体のhighが増すといったバランスの取り方も良く使いますね。







以上、「全体像としてのEQバランス」にフォーカスし、編曲やMIXで目指すべきサウンド感をご紹介しました。
いわば「木」や「林」ではなく「森」を見る作業ですね。
いかがでしたでしょうか?

クリエイター・ディレクター問わず、楽曲のサウンド感を判断する材料の1つになればと思います。




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