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マニピュレーター方法論1 【マニピュレート】

マニピュレーターとしての仕事を始めて依頼されたのは
今から5年前、2011年のことでした。
初めてのことで手探りで方法を模索した記憶があります。
編成も特殊で、

ボーカル+ギター+マニピュレーター

という。笑

今、ちょちょいと戻って自分自身を指南してやりたいです。
恐らく、不安定なサウンドだったでしょう。

マニピュレートって、webにもあまり情報が転がってないんですね。
ましてや専門のHow to本があるわけでもない。
しかも、その形態は10年前・20年前とはだいぶ異なり、その内容もちょっと変わっているでしょう。

ということで、僕がここに記したいと思います。
マニピュレーターに関してはあまり実績は積んでいませんが、
zepp・パシフィコ・味の素スタジアム、という経験をさせて頂き、
大舞台への責任感からめちゃくちゃ勉強する必要があり、正に必死で得た方法論を、笑
分かる範囲で紹介したいと思います。




マニピュレーターとは?


まずは簡単に、ライブ当日の仕事内容はというと、
「足りない音を流す」
平たく言うと、なんだか簡単そうですね。

バンドメンバーには出せない音、例えば、

・2本目3本目のギター
・ピアノ
・弦
・ブラス
・ボーカルのハモ
・特殊なエフェクトをかけたボーカル
・SE
・効果音

などです。

パソコンを操作して、足りない音を再生するだけのシンプルな役目です。
シンプルだからこそ、課題が山ほどあります。
では、順を追って仕事内容を掘り下げていきましょう。

生演奏での公演ではない場合はもっと簡単な内容になるので、
この記事ではバンド隊がいる場合を想定します。




曲データの流し込み


ライブの規模にもよりますが、予定されているライブの日程から逆算して、
だいたい1~2ヶ月前にスタジオリハーサルが始まります。
スタッフ・バンド隊が集まり打ち合わせを交えながら音を合わせていきます。

実は、このスタジオリハ初日には、マニピュの仕事の半分以上は終わっています。
いえ、「終わらせて」います。

ということはマニピュレーターにとっては
リハ初日までの準備期間での仕事量が一番多く、一番重要、ということになりますね。

リハ初日の2・3週間前から作業開始できれば間に合うでしょう。

まずはマニピュレート用のノートPCに演奏予定の全ての楽曲のデータを流し込んで
曲順通りに並べて、アウトプットのルーティングを組みます。
「幕末Rock超超絶頂★雷舞 2016.2.28 パシフィコ横浜 国立大ホール」では、
昼夜公演、延べ30曲を演奏したので、
1曲20トラックほどに詰めたとしても30×20=600トラックですね。

非力なPCではとても安心できるトラック数ではありません。
スタジオの中は、楽器の出す大音量で机も常に振動もしているので、ドライブはSSDが必須です。





トラックの種類がすぐ分かるようにカラー分けするのも大事です。

曲の頭にマーカーを打ち込みます。
BPMも曲ごとに変わるので、トンポトラックにて反映します。





最終的に、ライブ前日には、データをfixし10トラック以内にまでまとめてしまいます。
PCがフリーズすることが一番の懸念すべき問題点なので、とにかく最後は軽くすることが重要。
必ず不要なトラックは消して、バスごとにまとめています。




ルーティング





各トラックのルーティングはバスを多用し、現場でのリクエストに一瞬で対応できるように組む必要があります。
メインボーカルも勿論、読み込んでおきます。
ボーカリストがメロディを忘れてしまったときなど、即座に流して確認できるようにしたり、
ボーカル不在のスタジオリハではメインボーカルも一緒に再生して練習を行います。
とくかく全ての音を入れておき、バスでまとめ、数クリックで全てが実行できる環境を構築します。
ライブ前日に10トラック以内にまとめる際、
バスごとに素早く書き出すことができるという、作業効率のメリットもあります。




MIX


ライブでの再生となると低域が足りないケースがあります。
生のギターがアンプから図太いディストーションサウンドでズンズン咆哮している中、
同期させて流すギターサウンドがぺらぺらな音だと全くかっこよくありません。
ハコでの鳴りを想定してローエンドをコントロールしておく必要があります。

逆に、シンセベースが60Hz以下の超低域をガンガン再生させてしまっていると、
相対的に生ベースがやたらと軽く聴こえてしまいます。
曲ごとにばらつきのあるサウンドを生バンドサウンドに合わせて均一化する必要があるのです。

もはや再MIXですね。
30曲のバランスをみて、サウンドを調整します。
音量差もなるべく揃えます。




曲間


曲と曲の間の秒数も想定して暫定で設定しておきます。
拍手が起きるタイミングの曲間であれば「ちょっと長いかなぁ」と感じるくらいがちょうどよかったりします。
場合によりパッドだったり、シバース系の音だったり、
SE(サウンドエフェクト)をうっすら挟んでおくと、空気感がスムーズになったりします。
曲のイントロで、ライブアレンジのような雰囲気を演出できるので、僕はリスナーとしてこういうの好きです。





画面、紫のトラックがリバース系のSEになります。曲間を埋めるように、次の曲頭への勢いをつけています。




クリック


同期させる「足りない音」。
ただ流すだけでは生演奏とスピードが合わずバラバラになってしまい意味を成しません。
そのために曲の縦線を把握する目安「クリック」を設定し、プレイヤーにクリックを聴いて貰う必要があります。
主にドラムがイヤホンでモニターします。
会場が広いと、音の速度の関係上、場所によって音が大幅にずれてくるのでタイムを統一するために
ボーカリストやギタリストもモニターする場合があります。

このクリック、人によって好みがあるんですね。
僕は幸いドラマーとしてクリックについて理解が深かったので、充分気持ちが分かります。


・ルーズな音は× 痛すぎる音でも× ほどよいアタック感と存在感
・低域がない音は掻き消されやすいので少し太めにしておくと吉
・1拍目のクリックはボリュームを突いた上で、4分音符で鳴らす。そうすることで今何拍目か分かりやすい
・8分音符で小さめに別の音を足しておく。僕はハットの音を足す。グルーブをとりやすくなる。
・BPMの遅い曲は16分も入れておく。グルーブをとりやすくなる。


これを基本に、変拍子で拍数が変わる箇所も全て反映します。





また、曲の入る位置を明確にするためにボイスカウントを足しておきます。
外人が「one、two、one two three four」と言ってるものがベタです。
これを合図にドラムがカウントをスタートできるようにするのです。
全てはプレイヤーへの気配りです。




ギタリストと打ち合わせ


生のギターが1本の場合、同期で流すギターをどのトラックにするかという選択をする必要があります。
ギタリストの希望もあるため、一度ミーティングする必要があります。

「ここはソロ弾くからバッキング流しといてー」
「ここのギターでかいなぁ」

なんてやり取りを全曲、ぶっ通しで行います。
1日がかりの確認ですね。






以上がリハ初日までにすべきことです。
30曲もあるとヘビーすぎて、学生時代の試験勉強を思い出します。
手を付けるのが遅くなると、あとあと追われるので、早めに作業開始するのがコツです。
作業開始するためには曲目・曲順が決まっていないと出来ません。
プロデューサーにしっかり問い合わせましょう。笑






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