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音圧を上げる本当の方法 【MIX】【編曲】

楽曲の音量の大きさを競い合うようになり、年々、音圧は大きくなり、
2010年頃にピークを迎えた印象でしょうか。
今では音圧戦争なるものが音楽業界を支配していて、
市販されるCDは最大音量(0dB)ギリギリまで濃密に音が詰め込まれています。
90年代のCDと、ここ最近のCDの音を比べてみると、その音圧の違いは歴然です。


現代の「大きくなってしまった音圧」に対応しようと、
「とにかくリミッターに突っ込めー!」といった浅い手法でマスタリング処理された結果、
音割れしてしまったという音源も市場には数多く見られます。


テレビ放送ではラウドネス規格があるため、どの道、音量を抑えなければならないため、
「高い音圧=他の曲(普通の音圧)よりも宣伝効果が高い」という数式にあてはまることは決してありません。
多くのマスタリングエンジニアは「音圧は控えめに、クリーンな音像をリスナーに届けるべきだ」と主張しています。


しかし、音圧が高い音源に「迫力を感じる」というアーティスト側の主張もまた事実。
(昔からそうやって1段階1段階、高い音圧に新しさと魅力を感じてきたという流れもあるとは思いますが)


というように、現代の「音圧」への理解は、賛否両論です。


僕はアーティスト側(作曲・編曲)、エンジニア側(MIX・マスタリング)の両方の立場に立っているので、
どちらの言い分もよく理解できます。
エンジニア側は音圧に否定的な見解が多く、
作曲者側は音圧にこだわりを持つ人が多いように思います。


そして、その作曲者の多くは


「その音源達と肩を並べて戦えるほど音圧の高い楽曲データを書き出したい」


と、勘違いをしています。
プロの音楽は、音圧をあげようとして上げたのではないのです。
そもそもフォーカスポイントは音圧ではないのです。
「迫力」なのです。





音圧をあげたいと切望し、バスコンプをかけ、リミッターにこれでもかと突っ込むが、
過剰なコンプやリミッターは音像の激変・破綻を生む。
彼らの多くは実は、「音圧をあげたい」と思っていたのではなく、
市販のCDのような「迫力が欲しい」「かっこよさを手に入れたい」と考えていたはずです。


どうやったら迫力が出るのか?→どうやら音圧が足りないみたいだ


と、いつの間にか目的が変わってしまったのです


では、迫力とはなにか。


試しに、自分の曲(マスタリング前)と、リファレンス曲を6dBくらい下げたトラックを聴き比べてみてください。
リファレンスのフェーダーを下げた分、音量は同じくらいに並ぶはずですが、
どうにも自分の曲の方が「かっこよくない」と感じれば、それは「迫力」の問題です。
そこがキーポイントです。
リミッター2段掛けやマルチバンドコンプばかりに頼っては、「音圧は高いけど迫力のない音源」になってしまうのです。






改善策1 編曲


編曲はただ好きなトラックを重ねればいいというものありません。
全体の周波数バランスも編曲の時点で考慮しないといけません。

例えば
サビでギターのオブリが足されたり、ハット系のループが足されたり、ベル系のカウンターが鳴っていたりという常套手段は
AメロBメロで足りなかった高域が補われることで曲のEQバランスが満たされ濃密になり
サビがパッと派手に「大きく」聴こえる、という計算によるものなのです。
周波数バランスが上から下まで満ち足りていると聴感上「大きな音」、つまり「迫力のある音」に聴こえるのです。





編曲の時点でMIX的な周波数バランスを考える必要があるのです。
そういった技術も編曲家にはもとめられます。






改善策2 音のクオリティ


しかし、編曲が良くてもソフトインストゥルメンツの音が悪いとどうにもかっこよくならないものです。
チープなソフトでは音自体に密度が足りず、楽曲をうまく満たしてくれません。
ゆえに、プロが選ぶソフトとそうではないソフトというものがあるのですね。





生音であれば、使う楽器・演奏テクニック・マイキングが非常に重要です。
しっかりと発音のいいプレイで、適切なマイクのチョイス、適正入力レベルでのレコーディング、が「いい音」を生むのです。
微妙な録り音ならば、やはり迫力は出ません。
レコーディングの時点で仕上がりを想定する必要があります。






改善策3 MIX


ここでやっとMIXです。
1つのブログ記事でその全てを説明できないので、特に気をつけるべきポイント3点ピックアップ!

 

  • kickのボトム感
  • サイドチェインコンプ
  • ローミッドのカット






まずは、ずばり「kick」。
kickのボトム感は最重要視するポイントです。
MIXは最初、kickをソロ再生して作業スタートしていきます。
kickが一番大事なのです。
kickがドスッと重く重心が下がってくれないと、パワー感・音圧感は絶対に演出できません。
迫力・圧力を意識するのであれば、低域は圧倒的に大事です。
もしkickのlowが十分に出ていないと、相対的に高域ばかりが強調され、耳に痛いシャリシャリしたサウンドになります。
まずは低域を確保し、楽曲全体の安定感を得ることから始まります。

 

そしてそのキックをトリガーとして、キック以外全てのトラックをまとめたバスに対して
サイドチェインコンプを掛ける手も僕はよく使います。
トータルコンプで曲全体がうねるような処理を予めサイドチェインコンプでやっておこうという考えです。
ボトムをしっかりと出したキックは他のトラックに対し音量も大きくなるため、
このサイドチェインを使って、キック以外の音の存在感を出そうという目的もあります。
つまり、リミッターに通す際に入力レベルがナチュラルになり効果的です。
ロックやEDM系は深めで、浅めならばどんなジャンルにもマッチします。

 

また、全体的な考慮点として、
ローミッド(200~600Hz)くらいに色々な楽器の周波数が重なり膨らみやすいので、
この辺りを少しカットしていく方向で混ぜてあげます。
たまに、マイク録りしたアコギなど、
マイク特性で1kあたりにシンセのレゾナンスっぽい持ち上がりが出来ることもあるので、
この辺りもカットすることがあります。
重なりすぎる箇所を整理してあげることで、
周波数バランスが満遍なく行き渡り「大きな音」に聴こえるようになります。

 


 

以上、3つのテクニックだけでも突き詰めると、
周波数バランス的にも「大きな音」に聴こえ、
マスタリング段階でのコンプやリミッターの掛かり具合もグっと自然になるはずです。
つまり、音像を大きく崩すことなく特に変な意識をせずとも波形を最大限大きくできるのです。

最終段階のマスタリングだけに焦点を当てると迷走してしまう音圧問題。
MIXや編曲、はたまた作曲や作詞にまで立ち返ることで、その本当の方法を理解出来るはずです。
僕はこの方法で、音圧問題に対して肩の力を抜くことが出来ました。






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